新しい、革財布

呪われた財布

5年ほど前から使っていた財布がボロボロになってきたので、別の物に換えることにした。

スーツスタイルによく似合う、クセのないデザインの、コードバンの革財布。傷ひとつ無いツヤツヤの表面と、新品特有の革のにおいが心地よく、持ち歩いているだけで軽快な気分になってしまう。カードケースと定期入れも、同じシリーズで統一した。


ところでこの財布たち、実は今回新調したものではない。10年以上前、このブログで幾度となく書いている『例の彼女』から、プレゼントとして貰ったものだ*1

私は私服の仕事に就いているので、時たましかスーツを着る期会がない。そうしたスーツスタイルのとき専用の財布として、目にするたびに若かりし日の彼女との時間を想い起こさせる特別な品物として。年に2~3度、生涯大切に使い続けるつもりで彼女にねだった物だった。


当時の私のおめでたい脳内には、いつか彼女と別れの日が訪れるなどという想像は1ミクロンすら存在していなかったので、なんというロマンティックな最高のプレゼントだろう!と自画自賛していたものだったが、彼女と別れた瞬間、完全に真逆の効力を発揮する恐ろしい化け物へと、この財布は豹変してしまった。

なにしろ「目にするたびに若かりし日の彼女との時間*2を想い起こさせる特別な品物」なのだ。般若の面も素足で逃げ出す最凶の呪いの武具と化したこの財布は、かのエックス・デイ以降、実家の押し入れ奥深くに封印され、私の前から永遠に遠ざけられることとなっていたのだった。


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あれから、7年の月日が流れた。失恋男に刺さるという評判を耳にし鑑賞した『(500)日のサマー』に、たった500日程度で立ち直る失恋など『失恋』とすら呼べぬわ!とあまりのヌルさに憤慨し*3、もはやこの失恋の苦しみから解放されることなど生涯あり得ぬのだと絶望していた私だったが、ここ半年ほど、少しばかり心持ちが変わってきた。

たとえば辛いことがあった翌日の朝、彼女のことを思い出しては戻らない過去と失われた未来に想いを馳せ、後悔の涙を流すことがなくなった。たとえば失恋から立ち直れないという恋愛相談の記事を、ネット上で検索することがなくなった。こんな私にも、『時間薬』は少しずつ、気づかないほど本当に少しずつ、効いていたのだ*4


そんな折に出会った彼女は、『例の彼女』と別れて以来、初めて心の底から「好きだ」と感じることができた女性だった。彼女と付き合っている間、私は『例の彼女』と目の前の彼女を比較することなく、幸せな時間に集中することができた。この感覚は、実に7年ぶりの感覚だった。様々な理由からすぐに別れることになってしまったけれど、彼女は、私の人生に新しい風を感じさせてくれた女性だった。


これからまた、私は心の底から女性を愛することができるのだ。こんなに嬉しいことはない。

革財布にかけられていた呪いは、いつの間にか、消えていた。


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*1:誕生日プレゼントとしてそれぞれ1つずつ、3年越しでおねだりした。

*2:『トラウマ』と読む。

*3:https://twitter.com/Tanishi_tw/status/745122725132308481

*4:付き合っていた期間とほぼ同じだけの時間が、回復に必要だったけれど。