このまま恋愛的アプローチを行うことが「リスク」と化していけば、安全に恋愛を楽しむ場所を提供するサービスとして『恋愛相談所』が登場することになるだろう

コミュニケーションの加害リスクに過敏になっていく、世間の風潮

ta-nishi.hatenablog.com
前回の記事のブコメを見て、恋愛的アプローチの加害性/被害性について過敏な人は予想以上に多いんだな、と思った。

恋愛に限らずコミュニケーションにおいてはどんなに気を付けていてもすれ違いは必ず発生する。それを根絶しようとするのではなく事後どのようにフォローするかが重要だと私は考えているので*1、「告白ハラスメント」のようにコミュニケーション被害を必要以上に危険視したり、逆に加害リスクを前に過剰に萎縮してしまうような風潮はいかがなものかと思っている。

とはいえ恋愛的アプローチの加害性/被害性に男も女も過敏になる風潮がこのまま高まっていけば、そもそも恋愛的アプローチ自体が非倫理的であるとされ、避けられる方向に向かうのではないだろうか。セクハラ・パワハラが社会問題としてかつてない程大きく取り上げられるようになってきた昨今の風潮の帰結として職場という場所はすでに完全にそうなっているし、これが趣味の場や学校、夜の街等プライベートな領域にまで拡大したとしても、さほど不思議なことだとは私は思わない。


そしてそうなってくると、異性に安全に恋愛的アプローチをかけることが出来る場所として、結婚相談所ならぬ『恋愛相談所』的なサービスが需要を集めるようになるのではないだろうか。すでにマッチングアプリはそのポジションに近い場所にいると思うけれど、もっと業者側がユーザーをガッツリ管理し、「不本意な出会い」が絶対に起こらないよう徹底的に配慮された代物が。


「恋愛力…たったの5か…ゴミめ…」

恋愛相談所では現在の結婚相談所と同じように、恋愛を希望する男女が個人情報と共にユーザー登録を行う。登録された男女は容姿・年齢・収入・職業・住所・性格・趣味・恋愛経験・両親の職業・家柄等から「恋愛力」を数値化され、同レベルの相手にしかアプローチを行えないよう徹底的に管理される。これは、「告白ハラスメント」対策である。

恋愛力53万の港区在住20代モデルの女性が、恋愛力5の40代ニートのおっさんのプロフィールを眺め、「恋愛力…たったの5か…ゴミめ…」と呟くそんな世界。ユーザーはSUUMOで不動産の物件を選ぶように自分の恋愛力で「購入」可能な異性を吟味し、希望した異性と相談所職員立ち会いの元で謁見を行う。交際の合意が成立すれば「契約完了」。合意書面と捺印を交わし、カップル成立である。

性格や趣味をAIにより分析し、相性のよい相手を紹介するようなサービスも、将来的には搭載されるだろう*2。不快なアプローチを受けた場合は運営に通報すれば相手は即座にアカウント停止され、ユーザーの安全は確保される。


要するに、現代社会で安全にエロを楽しみたい人間が、風俗やハプニングバーに行くのと同じ話である。最近は安全に猥談を楽しみたい人間むけに、『猥談バー』というサービスも登場したと聞く*3。これら性風俗サービスには、社会的リスクの高い性行為や猥談を、双方合意の元で安全に楽しむ為のサービスという側面がある*4。これと同じように恋愛に対する社会的リスクが高まっていけば、リスクを避けて合意の上で安全に恋愛を楽しみたい人間向けのサービスが登場してくることは、想像に難くない。

世の中にはこれら性風俗サービスを倫理的にけしからんと言う向きもあるが、それは完全に逆である。管理されていない野生のエロや恋愛のほうが、加害被害の暴力性によほど満ち溢れている。そうした危険な代物を安全に楽しむために提供されているサービスなのだから、これらサービスはむしろ「倫理的」なのだ。恋愛相談所が一般的な恋愛の形式になれば、相談所以外の場所で行われる「野生の恋愛」は、野蛮で暴力的なモノとしてむしろ忌避されるようになるだろう。


野生の自由恋愛は、日本人にはまだ早すぎた

結局のところ、私たち日本人に野生の自由恋愛はまだ早すぎたということなのかも知れない。そもそも日本には恋愛という風習がなく、恋愛結婚が一般的になったのもせいぜいここ50年ほどの話である。それまでの相手を選択する自由すらなかったお見合いとはまったく異なる自由恋愛は、「自由」を至上のものとする戦後社会の風潮とも重なり、封建的な「イエ」から女性を解放するポジティブなものとして世の中を席巻した。

しかしその結果、私たちは必ずしも幸せになったと言えるのだろうか?ネットでは恋愛を巡って男と女が日々喧々囂々の対立を繰り返し、モテ/非モテという新しい値札により人々は階層化された。そのヒエラルキーの元で下層におかれた非モテがコンプレックスに苦しめられるのみならず、モテ側の人間までが不本意なアプローチに対して被害意識を募らせる。

自由恋愛のもたらした負の側面が、こうした男女の階層化や対立であったのであるならば。恋愛の自由にも一定の制限が設けられ管理される世の中のほうが、私たちにはお似合いなのかも知れない。そして、世の中の潮流は確実にそちらの方向へと向かっているように私には感じられる。

*1:無論、予防も充分に行ったうえでの話だが。

*2:アニメ『サイコパス』のように。

*3:猥談バー公式サイト | 会員登録はこちら

*4:特に猥談バーなどはそのまんまのサービスだろう。