Re:『不可解』

Re:『不可解』

「お金とか、ビジネスとか、効率とか、そういうことをこれから考えなくちゃいけないんだ」と歌う、若い作曲家が書いた曲を聴いた。若者らしく青臭い潔癖な、大人の社会に感じる薄汚さ。そうした物に対する反抗と不安。そんな感傷が歌われていた。

お金とか、ビジネスとか、効率とか、
そういうことをこれから考えなくちゃいけないんだ。
そうでしょう?

だって学校なんかじゃ責任感とか、団体行動だとか、
ありもしない、意味もない将来のためとか言って教えてくるじゃん?

「あるべき人間の姿へ」 「正しい人間の姿へ」

そう思えばなんだか人間全てが汚く思えてくるな。
仮想世界とか、妄想とか、そういうものこそ美しくなる。
ああなんだこの感情は。人間らしくない私だ。

お金とか、ビジネスとか、効率とか。そういうことをあまり考えてこないまま、私は45歳を迎えてしまった。私がまだ10代の若者だったころ、大人の社会はひどく汚らしいものに見えていた。その感想はこの年齢になったいまでもあまり変わっていない。お金とか、ビジネスとか、効率とか。大人の社会はそういうもので回っているし、いい大人のひとりとしてそうしたものに取り囲まれて私も生きている。

「人間の正しさってやつを今勉強しているわけですが、
セオリー通りに生きて、教えられた通りにやることが、そりゃ正しいと思うよ。
でもさ、きっとそれだけじゃないでしょう?」

何かを間違いだって思うから、誰かに間違いだって言われた。
それじゃあこの気持ちはなんだ? 愛情とはまたほど遠い。
激動とも言い難い、どうにも表せない歪な感情。

これこそ美しいのではないか? この美しさは間違いか?
ならこんな世界いらない。 私の信じるものを信じたい。

私がまだ10代の若者だったころ、大人の社会はひどく汚らわしいものに見えていた。その感想はこの年齢になったいまでも残念ながらあまり変わっていない。お金とか、ビジネスとか、効率とか。大人の社会はそういうもので回っているし、いい大人のひとりとしてそうしたものに取り込まれて私も生きている。



ただひとつ、10代のあの頃と私がちがうのは、大人もまたそうした社会を「正しい」と考え生きているわけではないと知っている事だ。大人もまた「私」の信じたいものを信じるために、日々の押しつぶされそうな生活の中、不安定で未覚醒で不完全な声明ただそれだけを頼りに、この醜く正しく効率的な社会に必死の反抗を試みている。そうした大人たちが少なくともこの世の中に存在すると知っている事だ。

感情、衝動、号哭。そうしたものをお金とか、ビジネスとか、効率とか。そういうものより優先する大人たち。この若者の目に、もしかしたらそうした大人たちは映ってはいないのかも知れない。だからこそこんな切実さに満ちた、こんなにも哀しい詩を泣き叫んでいるのかも知れない。でも。

それは確実に存在する。夜の繁華街に、ライブハウスに、クラブに、スナックに、ゲームセンターに、インターネットの仮想空間の片隅に。私は出会ってきた。まったく大人らしくない彼・彼女たちに。まったく大人げない彼・彼女たちに。彼・彼女たちに出会えたおかげで、私はこの年齢まで生き延びることができた。


私もまた、そんな不可解な大人たちのひとりだ。


だってそうでしょう?

満足してたらこんなところでブログなんて書かない。こんなに苦しくならない。こんなところで踊らない。こんな気持ちで叫んでいない。こんなに美しくはなれない。こんなに楽しくなっていない。

お金とか、ビジネスとか、効率とか、そういうことじゃないでしょう?愛情とか、友情とかそういう何かじゃ計り知れない心が打ちひしがれたあの不確かな情景を綺麗だと思うのは、そうだそれこそが、

「「人間の証だ」」


www.youtube.com




……




親しい人から「花譜」というシンガーを教えてもらった*1。中年になりめっきり新しい音楽を聴くことをしなくなっていた私だが、彼女が歌う『不可解』というメッセージ性の塊のような曲に久しぶりに度肝を抜かれた。

作詞作曲を担当するカンザキイオリをWikipediaで調べるとこうある。

カンザキイオリ - Wikipedia
学校に行く意味が分からず不登校になっていた中学2年生の時にVOCALOIDにハマる。

想像力を刺激された。社会に馴染めず不登校になった少年が、孤独な自室からその想いの丈をこれ以上ないほど率直に綴ったのがこの詩なのだろう。魂の叫びがこの曲なのだろう。そんな妄想が膨らんだ*2


私もまた10代で不登校となり、学校からドロップアウトしたかつての若者のひとりだ。大人になってから生きる大人の社会は、想像していた通りの汚い場所だったが、同時に考えていた程には醜い場所でもなかった。

そんな事をいまの若者に伝えたいと思い立ち、ふと、今夜はキーボードを叩いている。世界の醜さにいままさに絶望しそうになっている若者たちが、どうかそうならずに済みますように。崩れ落ちそうになっている若者たちが、どうか、殺されずに済みますように。


*1:以前、小島アジコさんがブログで薦めてて聴いてはいたんだけど、改めて別の人から薦められ「あれか!」となった。

*2:これが私の見当ちがいな妄想でも、なんなら音楽業界が立案した嘘設定でも構わない。