翁には、もっと駄目人間であって欲しかった - 「考える生き方」(finalvent著)

はてな村の「翁」として有名な、id:finalvent氏の「考える生き方」を読みました。

考える生き方

考える生き方


ぶっちゃけ、もっと駄目人間であって欲しかった(失礼)

氏が、結婚して、子供が4人もいるというのに、まずびっくりしました。この本で、一番びっくりしたことです。ブログの雰囲気から、てっきり独身だと思っていたので…

あと、もの凄く有能な人ですね。そして、勤勉。勤勉というか、努力ではなく、楽しみとして勉強ができる人。大学院を中退したり、仕事や住む場所を大きく変えたり、フリーになったりと、それなりに寄り道した人生を送っても大きく落伍せず生きてこられているのも、氏が勤勉で優秀だからなのでしょう。

「他人から見たら人生の失敗者だけど、諦めちゃったというのではなく、それなりに自分では考えて生きてきたという人」かな。
世の中には、「こうしたら成功できる」とか、「こうやって成功した」という本はいっぱいあるが、「残念、私の人生は失敗だったんだけどね」という本はあまりないように思う。
「読む人いないよ、そんな本」と言われるとそうだが、冷静に考えると、多数の人は私みたいに「人生、失敗したなあ」という人生を送ると思う。で、どうする?

氏はこのように書かれていますが、いや…充分、他人から見て成功されているんじゃないですかね、正直なところ。

翻って自分に眼を向けてみれば、僕はいま、30代中盤。正社員とはいえ中小企業の一介のサラリーマンで、学歴もなく、おそらくいま以上に経済的に豊になることもなく、結婚もできず、子供ももてず、氏の半分も世間的な「成功」を掴むことができない、「あぁ、失敗だったな」という人生を今後歩むであろう人間です。これから先の人生に不安もあり、「なんのために生きているのだろう」と思い悩むこともあり、若き日の失敗を指折り数え、後悔に身悶えする夜もあります。

氏の本には、こんな自分が今後生きていくための指針や心構えのようなもの…露骨にいえば、「孤独な独身男が、中年・老年をどのように生きるのか」についてのモデルケースを期待していた面があったのですが、この点では、あまり参考になりませんでした。仲のいい奥さんと、子供4人もいて幸せそうだし…ぶっちゃけ、翁はもっと駄目人間であって欲しかった、という思いもあります(失礼)。

しかし、人生の成功や幸せの感じ方なんてものは、極めて主観的なものですし*1、人生における様々な「悩み」「困難」に対し、人生の先輩としての氏がどのようなスタンスで向き合ってきたのか、興味深く読みました。

今後、氏の年齢に近づいていく中で、「あぁ、あのとき翁が言ってたのはこういうことだったのか」と思い返しそうな、「はてなおじいちゃんの知恵袋」的な本だと思います*2


「失恋」について語られていなかった

氏のブロガーとしての僕のイメージは、「ニヒリスト」でした。氏は、人生についてを語るとき、直接的に語るということはほとんどなく、抽象的にほのめかして語る。そして、その語るときの姿勢には、「語ってもどうせ伝わらない」という、ある種の諦めのようなものが感じられたからです。

本書でも、特に1章は、そのことが濃厚に感じられました。人生のしんどさは、本質的には誰からも理解してもらえることはなく、自分独りで抱えていくしかない。

本書では、仕事や家族の生活や病気のことが濃く語られる一方、恋愛についてはあまり語られません。「学生時代、手痛い失恋をした」と、何度か回想されるだけです。しかし、氏はその失恋を「10年以上うだうだと悩み続けた」とも書いています。

もしかしたらこの失恋こそが、氏にとって最も大きな「自分独りで抱えていくしかないしんどさ」なのかも知れない、と思いました。恋愛は、最も個人的な関係のひとつです。そこで生じるやりとりや感情には、どんなに言葉を尽くしても、他人には伝えることができない、でも自分にとっては何事にも換えがたい大切な部分が、必ず産まれます。

恋愛語りほど本人と他人の温度差が激しい話もありませんから、いくら「自分語りの本」とはいえ、あまりにも個人的すぎ、読者の興味も引けないと判断されたのか、想い入れが強すぎて語れなかったのかは知るよしもありませんが、このことについて、もう少し氏の想いを読みたかった気がします*3

*1:僕の人生ですら、「成功」だと感じる人もいるのだと思います。

*2:氏は55歳なので、「おじいちゃん」と呼ぶには若すぎますが。

*3:自分自身が、数年前の失恋を、いまだにうだうだと思い悩み続けている人間なので