コミュニケーションの型だと!?現場でやり込んで身体で覚えてくださいとしか言いようがない。コミュニケーションは座学ではなく体育なのでな…
— たにし (@Tanishi_tw) 2024年10月29日
コミュニケーションは、座学ではなく体育である
コミュニケーションの「型」の話題が私のTwitter上に流れてきた。コミュニケーションを苦手とする方が上達の足がかりとして「型」(知識)を求めるのに対し、上級者たちがコミュニケーションではそうしたものよりも目の前の個人をよく見て対応することが重要という話をしているようだった。
私はコミュニケーションは座学ではなく実技、特に体育に近いものだと理解しているので、ここでいう型(知識)だけ覚えてもどうにもならないと考えている。野球のルールだけ覚えても、野球そのものが上手くなるわけではないのと同じだ。教本から効果的なバッティングフォームを知識として得たとしても、訓練によりそれを血肉として昇華しなければ絶対に野球の上達には繋がらない*1。
人気格闘ゲーム『ストリートファイター』シリーズでも、→↓↘というコマンドを知っているだけでは満足いく精度で昇竜拳を打つことはできず、トレーニングモードで入力練習を繰り返す必要がある。相手のジャンプにタイミングを合わせ対空技として有効な一打を放つためには実戦での更なる訓練が必要になるだろう。
コミュニケーションもこれと同じ性質をもっている。コミュニケーションは頭脳ではなく身体的なものなのだ。「笑顔で挨拶すると周りに好印象を与えることができる」と知識として知っていても、実際に表情筋を動かして爽やかな笑顔を作り、よく通る声で適切な音量の発声ができなければ絵に描いた餅である。
格ゲー同様にタイミングというものも存在する。意味のない空振り昇竜は最大反撃の的であり、明らかに不適切な場でけたたましい馬鹿笑いを止めることができない映画『ジョーカー』におけるアーサーの描写など、もはやホラーの領域だ(病気なわけだが)
対人コミュニケーションには「CPU戦」がないという困難
コミュニケーションは知識だけ覚えてどうにかなるようなものではなく、実戦での訓練を必ず必要とする。上級者はこのことを熟知しているので、知識だけを求める初心者に辟易してしまう。この気持ちは私にも理解できる。
とはいえ藁をも掴みたい初心者の気持ちも理解できる。特にASDの方などはコミュニケーションの身体性を感覚として理解することが難しいので、適切に言語化して欲しいという願いは切実だろう。
体育とはちがうコミュニケーション特有の困難も存在する。↑で私は格ゲーをメタファーとしてコミュニケーションを語ったが、格ゲーには訓練の場としてトレーニングモードやCPU戦が用意されている。プレイヤーはこれらの場で技の精度や駆け引きの基本を磨いた上で、いざ「本番」の対人戦へと繰り出していくわけだ*2。
ところが格ゲーとちがい、対人コミュニケーションにはCPU戦に相当する訓練の場が存在せず、生身の人間相手にいきなり「本番」を行うことを要求される*3。生身の人間相手に未熟なコミュニケーションをとれば、相手を傷つける危険もあれば恥をかく恐れもある。このことからコミュニケーションに気おくれしてしまう初学者も多いだろう。であれば。
対人コミュニケーションにも「CPU戦」を作っちゃえばいいじゃない。
AIロボットにコミュニケーションの練習相手をさせればいいじゃない。
例えば「笑顔の練習モード」。ロボットとの会話の中で自然に発生した笑顔に対し、他者に好感を与えるような爽やかな笑顔には100点。コミュ障的デュフフ笑いにはマイナス200点。これをAIで判定する。
非常にシンプルだが実際これは有効だろう。対人コミュニケーションで一番むずかしいのは、自らの行動の合否判定だからだ。生身の人間は本音を隠すので、内心嫌がっていてもそれを表に出すことをしてくれない。何事でも物事の上達には正確なフィードバックが必要不可欠だというのに、対人コミュニケーションではこれを得ること自体が非常に難しいのである。
この困難を打破できるだけでもこのロボットには非常に高い有効性が存在するといえる。適切なフィードバックを得ることは上級者でさえむずかしいので、コミュニケーションに苦手意識をもつ者だけでなく営業職/芸能人/水商売等、コミュニケーションを武器とする職業全般にAIコミュニケーション練習ロボットは効果を発揮するだろう。ASDなどまさにこの「コミュニケーションの正解が感覚的にわからない」障害なので、こうかはばつぐんだ。
ナンパ講習会的なものも、AIロボットにとって換わられるだろう。現代ナンパ最大の問題点は「生身の女性を練習台にしていること」であり、そこから発生する迷惑と暴力性である。これを肩代わりしてくれるのだから最高と言わずしてなんと言おうか。コミュニケーション練習ロボットは効果的効率的なだけでなく、倫理的でさえあるのである。
AIコミュニケーション練習ロボットは、近い将来確実に「来る」と私は考えている。その時代には全国各所にコミュニケーション・トレーニングジムが建ち並び、意識高い系の連中がこぞってそこへ通い詰めるようになるだろう。ビジネス系/エンタメ系/日常系/恋愛系 etc…各コース豊富に取り揃えられ、初心者から上級者まで自らの必要に沿ったコミュニケーション・トレーニングを受けることが可能となるだろう。
この未来はごく当たり前に想像できる。コミュニケーション能力はいうまでもなく現代社会で最も求められる能力だ。にも関わらず、それを効率的に訓練可能な場はこれまで存在してこなかった。それが可能となるというのだから、このジムが現代の筋力トレーニングジム以上の隆盛を見せるのは火を見るより当たり前の話なのだ。
現代社会における最重要スキル、コミュニケーション能力。だがその内実は秘密のベールで覆われ一部の天才や生育環境/訓練環境に恵まれた者たちに独占され続けてきた。
しかしAIコミュニケーション練習ロボットにより、私たちは誰もがコミュニケーションの魔術師になることが可能となるのである。コミュニケーションが一部の天才による「魔術」であった時代はもうすぐ終わる。明るい未来は、やって来る。